“糖質オフ”が脳を救う?ケトジェニックの驚きの効果

「薬を飲んでも発作が止まらない」「気分の浮き沈みに悩まされる毎日を変えたい」——そんな悩みに対して、思いがけないアプローチが注目を集めています。それが、ケトジェニックダイエットという食事療法です。

もともと1920年代にてんかん治療を目的として開発されたこの食事法は、近年では精神疾患や代謝不良、さらには現代人の健康維持にまで応用可能な手段として、医療関係者や研究者の間で再評価されています。糖質を制限し、脂質を主要なエネルギー源とすることで体内の代謝を大きく変えるこの方法は、多くの人々に新しい希望を与えています。

この記事では、スタンフォード大学で神経生物学の教授を務めるアンドリュー・ヒューバーマン博士の動画から、ケトジェニックダイエットの科学的な根拠や治療効果を多角的に紹介し、なぜこの食事法が現代においてこれほど注目されているのかを明らかにしていきます。

ケトジェニックダイエットの基本的なやり方と特徴

ケトジェニックダイエットの基本は「高脂質・中タンパク・超低糖質」のバランスを意識した食事です。具体的には、1日の摂取エネルギーの約70〜80%を脂質から、15〜20%をタンパク質から、5〜10%を糖質から摂ることを目安とします。白米やパン、砂糖などの糖質を大幅に減らす一方で、肉・魚・卵・ナッツ・アボカド・オリーブオイルといった脂質を積極的に摂取します。

この食事法を継続すると、体内では「ケトーシス」と呼ばれる状態が生じ、肝臓で作られるケトン体が主要なエネルギー源となります。これにより血糖値の急上昇を防ぎ、安定したエネルギー供給が可能になるため、集中力の向上や空腹感の減少といった効果が期待されます。

てんかん治療におけるケトジェニックダイエットの実力

ケトジェニックダイエットは、糖質を極力減らし脂質を主なエネルギー源とすることで、100年以上にわたりてんかんの治療に用いられてきました。特に薬が効きにくい小児てんかんの患者に対しては、従来の抗てんかん薬よりも6倍もの発作抑制効果があるとされ、その有効性が高く評価されています。

この効果のメカニズムは、血中のケトン体濃度の上昇によって、脳内の神経活動が安定化されることにあります。ケトン体は、グルコースに代わる「もう一つの脳の燃料源」として機能し、神経細胞の過剰な興奮を抑える役割を果たします。最近では成人てんかん患者に対しても一定の効果があることが報告されており、全年齢層での応用が期待されています。

精神疾患にも波及する治療効果

ケトジェニックダイエットの影響は、てんかんだけにとどまりません。統合失調症、双極性障害、うつ、不安障害、摂食障害など、多くの精神疾患においても効果があるとする研究結果が増えつつあります。特に治療抵抗性のケースにおいては、劇的な改善を示す例もあり、実際に「人生が変わった」と語る患者の声も少なくありません。

この効果の背景には、血糖値の安定化、神経炎症の抑制、神経伝達物質のバランス調整といった複合的な生理作用が関与していると考えられています。また、食事を通じた自己管理が、患者自身の「自分で回復できる」という感覚を高め、心理的な安定にも寄与するとされています。

ミトコンドリアから見た健康の鍵

ケトジェニックダイエットのもう一つの重要な側面は、ミトコンドリア機能の改善です。ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場とも呼ばれ、その機能が低下すると、脳のエネルギー不足や酸化ストレスが引き起こされやすくなります。ケトジェニックダイエットは、絶食状態に近い代謝環境を模倣することで、老化したミトコンドリアを除去し、新しいミトコンドリアを生成する「マイトファジー」や「ミトコンドリア生合成」を促進します。

これにより、うつ病やアルツハイマー病などの神経変性疾患、さらには慢性疲労や集中力の低下など、現代人が抱えるさまざまな悩みに対して根本的な改善が期待されています。

腸内環境と脳の密接な関係

腸は「第二の脳」とも呼ばれ、精神の健康と深く関わっています。ケトジェニックダイエットは腸内細菌の構成にも影響を与えることがわかっており、これが脳の状態に直接作用する可能性が示唆されています。

実験では、ケトジェニックダイエットを実施したてんかん患児の便をマウスに移植したところ、発作が抑えられるという結果が得られました。これは、腸内細菌が神経伝達物質やペプチドを介して脳に影響を与えている証拠の一つといえるでしょう。

また、ケトジェニックダイエットが特定の短鎖脂肪酸の産生を促し、炎症を抑える働きもあることから、腸内環境を整える手段としても注目されています。

一般人にも有効な健康法としての可能性

てんかんや精神疾患がない人でも、ケトジェニックダイエットや断続的ファスティングを短期間取り入れることで、代謝の改善やエネルギーの安定化、集中力向上といった効果が得られる可能性があります。

また、生活習慣病の予防、睡眠の質の向上、慢性炎症の軽減など、現代人の健康維持において有望なアプローチであることが多くの研究で支持されています。特に忙しい社会人にとって、朝食を抜く形の「16時間断食」などと組み合わせれば、無理なく実践できる点も魅力です。

健康に必要な脂質の再評価

「脂肪=悪」というイメージはもはや時代遅れ。近年の研究では、低脂肪食の効果に疑問が呈され、むしろ良質な脂肪を積極的に摂取することの重要性が強調されています。オメガ3脂肪酸、オリーブオイル、グラスフェッドバターなどは、脳機能やホルモンバランスを整える上でも有益です。

ケトジェニックダイエットでは、これらの脂質をエネルギー源として活用するため、血糖値の急上昇を抑え、持続的なエネルギー供給が可能になります。その結果、間食の減少、情緒の安定、集中力の維持といった実生活での恩恵も期待できます。

まとめ

ケトジェニックダイエットは、単なる減量法ではなく、脳と体、心の健康を包括的に支える食事療法です。てんかんや精神疾患で苦しむ人々にとっては、治療の選択肢を広げる希望となり、健康意識の高い人々にとっては、パフォーマンス向上や生活の質を高める手段となるでしょう。

現代の情報過多な社会において、自分の体と心にじっくり向き合い、最適な食生活を見直すことは非常に価値ある選択です。まずはできるところから、無理なく、楽しみながら取り入れてみてはいかがでしょうか。

参考

参考 How Ketogenic Diet Improves Brain Function | Dr. Chris Palmer & Dr. Andrew HubermanHuberman Lab Clips